20年後も価値がある街を目指した 住民同士が心地よく暮らせる街「桜郷里」

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桜郷里は豊かな自然に囲まれた分譲地で住民同士の距離が丁度いいんです。

今回は桜郷里の設計者である二瓶正史先生に街づくりのポイントや、桜郷里に住民同士のほどよい距離感が生まれている理由をうかがいました。

「街づくりの思想」に共鳴した人がルールを守って住むことで街が育まれていく

――まずは、桜郷里のように住みやすく価値のある街について教えてください。

価値のある街とは「住みやすい環境価値の高い街」です。欧米では整備された古い街並みほど環境価値が高いという考えがあるんです。欧米であればイギリス・ロンドンにあるレッチワース、アメリカ・ニューヨークのラドバーンなどが有名ですね。

――例に挙げられた街はいつごろにできたのでしょうか。

▲レッチワースのイメージ


これらの街は戦前に作られているんです。たとえばレッチワースは1903年に建設がスタートしたイギリス初の田園都市です。レッチワースは1898年刊行のエベネザー・ハワードの『明日―真の改革に至る平和な道』で提唱された都市と田園それぞれの長所を合わせた田園都市思想に共鳴を受けた人々によって、住宅用地として選ばれました。

――1903年といえば産業革命末期ですね。

そうです。産業革命によって工場から煙や騒音、産業廃棄物などの公害が排出されることで、都市に悪影響を及ぼしていました。また当時は都市の急激な人口過密も問題になっていたんです。このような状況のなかでレッチワースは都市と田園を融合させた、都市でもない、田園でもない第3の選択肢として田園都市を提唱しました。

――ニューヨークのラドバーンも同じような時期に生まれたのでしょうか。

▲ラドバーンのイメージ


ラドバーンの開発がスタートしたのは1920年代からです。ラドバーンは歩行者と車両の動線が分けられた街づくりがされています。歩行者専用道路は行き止まりの道路を結ぶように配置されていて、自動車用の道路は曲線になっているのが特長です。

――日本国内においても環境価値の高い街はありますか。

日本では関東であれば田園調布や成城、玉川学園、関西であれば神戸の六麓荘が挙げられます。いずれも戦前にできた街で、神戸の六麓荘は昭和初期に開発がはじまっています。六麓荘もレッチワースと同様、自分たちの理想とする街づくりを目指して生まれた街です。六麓荘では環境を重視した街づくりが行なわれています。レッチワースや六麓荘などは、街づくりの思想に共鳴した人がルールを守って住むことでどんどんと育まれてきたという特長があります。

周囲の環境は住宅を建てるうえで重要な決定要素になる

――環境価値の高い街がなぜ重要なのでしょうか。

どれだけ素晴らしい家に住んでいても、街の環境や家から見える風景に不満を感じてしまっては意味がありません。街の環境や風景は自分のお金や努力では変えられないですよね。そのため、街の環境、風景は住宅を建てるうえで重要な決定要素になるといえます。

――日本において環境価値は重要視されているのでしょうか。

残念ながら戦後日本の不動産の世界では、欧米と比較すると環境価値は重要視されていない状況です。環境価値の高い街は住民がルールを守って住むことが大切です。ですが、ルールは自由と相反する部分があるため、自由が優先されるようになったことで、街のルールや規律が街づくりにおいて反映されづらくなってしまったんです。

――そのような状況に変化は現れていますか。

近年になって国の「優良田園住宅制度」や静岡県の「豊かな暮らし空間創生推進事業」といった、長期的な価値の創造を目指すプロジェクトがスタートしています。これらは価値のある街を作るうえで大事なムーブメントだと捉えています。今回の桜郷里のプロジェクトも静岡県の「豊かな暮らし空間創生推進事業」の考え方に基づいた分譲地です。

桜郷里のルールが家と家のほど良い距離感を生み出している

――環境価値の高い街にはルールがあるとのことですが、桜郷里にはどういったルールがあるのでしょうか。

桜郷里では景観協定として、家と家が境界線から最低でも2メートルずつ離れるというルールが設けられています。つまり、実際の建物と建物は4メートル以上離れていることになります。一方、一般的な家は境界線から約0.5メートルずつ、建物と建物の間は1メートルほどしか離れていないんです。そう考えると、いかに桜郷里は家と家の距離感に余裕があるかが分かりますよね。このようなゆったりとしたスペースがあるからこそ、お隣同士が丁度いい距離感で暮らせているんだと思います。

加えて、桜郷里はすべての住宅が都心の2倍以上の坪数で、建ぺい率が30%という点も、住民の方がお隣同士との距離が丁度いいと感じる理由かと思いますね。

――建物同士が4メートル以上離れることでのメリットはなんでしょうか。

建物同士が4メートル以上という距離で離れていることで、住民の方のプライバシーが保たれます。また、街全体の風通しや日照も良好な状態を保てるというのもメリットですね。実際に家を建てる際には、私が事前に景観協定に沿った建築計画になっているかチェックしているので、すべてのお家が等しくゆったりと配置されるようになっています。

こだわりが住民の方々のゆとりにつながっている

――プロジェクトについてどのようなこだわりがありますか。

最もこだわった点は今回のプロジェクトに参加したすべてのハウスメーカーと景観協定を作り上げたことですね。20年後も環境価値がある街づくりのために、ハウスメーカーと志をともに協定を作り上げられました。

――造成についてのこだわりはありますか。

造成については住宅を碁盤の目のように整然と並べるのではなくて、道路を緩やかにカーブさせて、区画と区画にも微妙なズレをつけています。また、宅地につながる道路を南北道路にした点も大きなこだわりですね。正面ゲートから入って東西に道路が伸びているほうが宅地の数は多く取れます。ですが、桜郷里ではあえて南北に道路を伸ばしています。南北に道路が伸びたことで、住宅の前が東西に開いて開放感を生んでいます。

このようなすべてのこだわりが、「ゆとり」として住民の方々に喜ばれていると考えています。


二瓶正史(にへい・まさぶみ)
(有)アーバンセクション代表。法政大学工学部建築学科を卒業後、82年東京都立大学工学研究科修士課程(都市形成史)修了。97年まで㈲宮脇檀建築研究室に勤務、98年アーバンセクションを設立し、現在に至る。特に戸建て住宅地の計画・設計が専門、全国に多くの実績がある。グッドデザイン賞、都市景観大賞優秀賞など受賞。住宅生産振興財団とも設立以来、多くのプロジェクトに関わってきた。著書に『東京の町を読む』『街並を創る』『コモンで街をつくる』(以上共著)などがある。